sickness
(other side)



朝のHR。今日も教室にの姿はない。

最初に彼女の母親から、娘が熱を出したので休ませますと連絡があったのは三日前。

そして今日、先ほど三度目の連絡を受けた。

熱はほとんど下がったが、まだすっきりしないようなのでもう一日休ませる、というものだった。

ただの風邪にしては長くはないだろうか?

私が尋ねると、

疲れがたまっていたんでしょう、何でもがんばりすぎる性格だから。

という、苦笑混じりの母親の答え。


確かに、はがんばり屋だ。少々無理をしているのではないかと思うぐらいに……

以前、息抜きにと彼女を丘につれて行ったのもそのせいだ。

3年生になっって、ますます彼女のやるべき事は多くなっただろう。

吹奏楽部でも部長の仕事を十分にこなしている。


しかし……やはり、疲れがたまっているのだろうな。


彼女の身を案じつつも、教師・氷室零一として、一生徒の授業の遅れは気になるところだ。


……よし。

私は担当授業のない時間に、彼女への宿題を製作することにした。

ふむ、これは次の小テストにも使える。




放課後、車を飛ばし、私はの家に向かった。

玄関で私を出迎えたのは、と顔立ちがよく似た小学生の弟だった。

彼は一瞬、ぽかんと口を開けて私を見上げたが、すぐに笑顔で挨拶をする。

「こんにちは、氷室先生。姉がいつもお世話になってます。あ、お見舞いに来てくださったんでしょ? どうぞ上がってください」

「あ…いや、ご両親は在宅だろうか?」

小学生にしてはしっかりした対応ぶりだが…なぜか彼の笑顔が妙に引っかかる……

「二人ともいませんよ。父は仕事、母も用事で出かけてますから」

「そうか……」

しかたがない、彼にこのプリントだけでも渡してもら…

「ささ、先生、遠慮せずに上がって上がって!」

「は?……いや、別に上がる必要は……」

「姉も先生の顔を見たらすぐに元気になりますから!」

彼は私の言うことをにこやかに遮ると、半ば強引に私を家に引っ張り上げた。



「ねえちゃん、入るぞ」

「もう! 部屋に入るときはノックでしょ?」

部屋の中から不機嫌そうなの声がした。

確かに。ノックもせずにプライベートルームに入るのは、いくら自分の生徒とはいえ礼儀を欠いている。

私は、すでに開いているドアをノックした。

「ノックをした。今から部屋に入る」

尽君が脇へよけ、私は中に入った。

それじゃ、あとよろしくお願いします、と言って彼は出て行った。

お願いされても困るのだが……


が目を一杯に見開いて私を見ていた。よほど驚いたのだろう。

「氷室先生!? か、家庭訪問ですか? あの、あいにく今は父も母も……」

「……落ち着きなさい。そうではない」

気を使って体を起こそうとし、ふらつく彼女に私は言った。

「起きなくてよろしい。寝ていなさい」

「は、はい……」

再び横になった彼女の側まで歩いて行く。

かなり痩せたか……

、具合はどうだ」

「あの、お陰さまで、もうずいぶんよくなりました……」

「そうか……よろしい。それでは宿題を置いていく」

机の上に、先ほど作ったばかりのプリントを置く。

「えぇ!?」

「“えぇ!?”ではない。今日までいったい何日欠席したと思っている。遅れを取り戻すためには、相当の努力が必要になる」

「……ですよね……わざわざありがとうございます」

言葉とは裏腹な恨みがましい彼女の顔を見て、私は少し口元を緩めた。

「……君を見て安心した。思ったより元気そうだな」


とはいえ……辛かっただろう。

彼女の痩せた頬がそれを物語っている。


ほとんど無意識だった。

私は膝をつき、手を伸ばして彼女の頬に触れていた。

女性は傷つきやすく、壊れやすい……誰に聞いた言葉だったか。ふと思い出したのだ。



しかし次の瞬間、びっくりしたようなの目と合い、我に返る。

私は慌てて立ち上がり、咳払いをした。


な、なにをしているんだ私は……?


咄嗟に冷静さを装いつつ、私はその場を繕う言葉を懸命に探した。


「……宿題の提出期限は……」


見ると、の顔が少し赤い気がする。やはりまだ熱があるのではないだろうか。

「提出期限は、可能な限り早くだ。可能な限り早く、学校に来なさい。……コホン。私はこれで失礼する」

それだけ言うと、私は踵を返した。

私がいては彼女も休めないだろう。

「はい……。あっ、ありがとうございました」

ドアに向かう私の背中に、が慌てたように声をかけた。



足早に階段を降りると、後から尽君が追いかけてきた。

「氷室先生、もう帰るんですか?」

私は玄関に揃えた自分の靴を履くと、彼に向き直った。

「お姉さんの具合は良くなっているようだが、まだ少し休養が必要だ。私は宿題を届に来ただけなのでこれで失礼する。ご両親が帰られたらよろしく伝えておいてほしい。……では」

何か言いたそうな彼に口を挟む余地を与えず、言う事だけ言うと、私は家を後にした。




私の中で、確実に彼女の存在は大きくなっている……


今まで持ったことのない感情への不安を振り払うように、私は車のアクセルを踏み込んだ。




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初めて先生視点で書いてみました。主人公視点より書いてて楽しかったです(笑) 
ビバ!オクテカップル!(馬鹿?) もう何も突っ込まないでやって下さい…


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